サーっとページが巻き戻った。今日は、まとまった小説を読むつもりだったのに。日差しはやわらかいが、風の強い午後だった。ページは、風に遊ばれ、指の間から逃げていく。
諦めて視線を風の方向へ、その時だった。何かが舞った、雪のような何かが。
淡く、軽く、風に導かれて渦を描き、ほどけていくように見えた。風の音とともに降りてくるその舞は、時間の間隔さえ消してしまう。目が離せなかった。手の中にある、小説の世界には、もう戻れそうになかった。
ここしばらく考えていたあれこれが、ふと遠くなって、風の中に溶けていくのがわかる。ざわついていた心が透き通り、遠い昔の風景さえ思い出されそうになる。
花は、咲く姿ばかりが美しいと思っていた。散る姿にこそ、こんなにも深く心を奪うのか。
終わってしまうもののなかに、なぜこんなにも澄んだ気配があるのだろう。名残惜しさと切なさ、少しの幸せ、満ち足りた想いが胸の奥で混ざり合っていく。
そんな私の感情など知らぬふうに、あの淡い桜の花びらは、空へ還っていった。空にほどけていった一瞬を、私はただ静かに見上げていた。
私の春は、ふとした瞬間に通り過ぎていきました。
今年、あなたはどのように春を見送りましたか。